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あれは一体何だったのか

日照時間が長くなった。

19時過ぎに仕事を終え、

職場から一歩外に出た時に、

まだ日が沈んでいなかったことに

僕は思わず驚嘆の声を漏らしていた。

夜に変わりゆく空は、

赤紫色から藍色にかけてのグラデーションを纏い、

まるでバイオレットフィズのように美しい。

意識せずに目に飛び込んでくるこの光景を

眺めるでもなく眺めていると、

やはり僕は酒を飲みたくなった。

詳細は割愛するが、

待機時間の長い単発の仕事をすることになったので、

時間つぶしのために

僕は久しぶりに本を購入することにした。

僕の敬愛する中島らも氏の著書を探したが、

たまたま立ち寄った書店には置いてなかった。

僕が中学生の頃は、

どの書店に行っても

彼の名著がずらりと並んでいた記憶があるが、

最近の規制の波に飲み込まれてしまったのだろうか。

嘆かわしいことだ。

仕方がないので他のものを物色していると、

カート・ヴォネガット著「タイタンの幼女」の文庫本を発見した。

学生時代に彼の著書をいくつか読んでおり、

この「タイタンの幼女」ももちろん読んだことがあるのだが、

この本の内容はおろか登場人物さえも全く思い出せないので、

また読み返すことにした。

このような場合、

大概は物語の断片だけでも記憶に残っているものだが、

こんな体験は初めてだ。

物語が進むにつれて僕の記憶は蘇るのだろうか。

或いは僕の記憶は深い闇の底に葬られたまま

新鮮な気持ちで読破してしまうのだろうか。

そして、実は読んだことがなかったというオチが一番怖い。

何人かの友人にこの本を勧めたことがあるが、

あれは一体何だったのかという話になる。

BGM:Popsicle『Story of My Life』


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